外貨準備高としての米国債

米国債を売れ

東日本大震災からの復興財源をめぐって増税か国債発行かという路線対立にはまり込んでいるが、一刻も早く被災者の苦労を和らげ、日本経済を速やかな回復軌道に乗せるために、まずは日本政府が積み上げた巨額の外貨準備の取口崩しで対応すべきではないか。

 

これから震災で失われたインフラや仮設住宅の建設、放射能被害に対する補償などのために緊急に5兆円を超える財源が必要だという。復興のために特別国債を発行する案も提案されているが、結局は国の負債になることについては変わりない。

 

まず考えるべきは、国が保有する外貨準備の取口崩しだ。現在、日本の外貨準備は約90兆円に達しており、これは中国についで世界第2位だ。5兆、10兆円の取り崩しは円に対する国際的信用にそれほど大きな影響があるとは思われない。しかも外貨準備の約7割は米国債で運用されており、全く有効に活用されていない。

 

そもそも日本のように為替レートを市場に任せていて、外貨建ての国債の発行もない場合、外貨準備は必要ない。安心して使えばよただし、日本の外貨準備は大半が米国債なので、これを一度に売却するとさらに円高になってしまうので、目立たぬようにする必要はあろう。

 

経常収支はこのところ減少気味だが、それでも10兆円を優に超える黒字を維持している。今回の震災で一時的には輸出が止まるなどの事態が相沢疋されるが、長期的に赤字に転落するような事態は想像されない。多少黒字が減って円安になるようであれば、外貨準備の取り崩しにとってはむしろ好都合だ。

 

民間企業や個人が海外に保有している資産も470兆円に達する。もちろん外国に対する負債も310兆円あるが、差し引きしても日本は世界最大の資産保有国だ。今回の震災による損害額は日本全体として見れば決して吸収できない数字ではない。市場もそのように見ている。だから円はますます強くなるのだ。

失われた意義

そもそも外貨準備は何のために必要か。固定相場制の下では政府が為替レートを一定に保たなくてはならないから自国通貨が安くなった時に備えて保有しておく必要があった。また国債を外貨建てで発行した場合、将来の返済に備えて外貨を準備しておく意味もあろう。

 

しかし日本の場合、為替レートは原則市場に任せており、外貨建て国債もないので、そもそも外貨準備を保有し続ける理由はどこにも見当たらない。今世紀に入り米国、欧州連合(EU)、英国などの先進国は為替は市場に委ね、政府は介入しないことを基本原則にしている。このような状況で日本が単独で介入しても効果は乏しい。

 

現に最近の日本政府の介入はほとんど効果がなかった。今や国際金融市場は大きすぎて一国ではコントロールできないのである。日本は政府が為替相場を操作しうる時代は終わったという時代認識を持つべきだ。産油国や一部の発展途上国は外貨準備を国富ファンド(SWF)として運用しているが、日本は国の方針としてこれはやらないとしている。だとすれば外貨準備の意義として考えられるのは「想定外」の事態に使うことくらいである。まさに東日本大震災がそれに該当するのではないか。

 

外貨準備の額が国力の尺度と考えるよケな発想も改めるべきだ。一般に政府が為替介入するのは、為替レことの裏返しでもある。外貨準備が大きいことは実は国内産業が弱いことを意味している。

 

民間企業も政府に円安介入を安易に求めることはやめるべきだ。効果がないだけではない。円高の日本経済への影響は誇張されすぎている。近年、日本の輸出構造は大きく変わり、かつての先進国向け耐久消費財の輸出から、アジア向けの原材料や部品の輸出、特に現地子会社への企業内輸出やグローバルなサプライチェーン(供給体制)内での取引にシフトし、為替の影響はかつてほど大きくはない。輸入サイドでも原材料、エネルギーは円高で値下がりするので、ネットの影響はさらに小さくなる。

 

日本の外貨準備高は20年で16倍に

日本の外貨準備はこの20年の間に急増した。政府が為替介入して円売り・ドル買いの操作を繰り返してきたからだ。この1年だけでも昨年9月15日に約2兆1000億円、さらに東日本大震災直後の3月18日に約7000億円の介入を行っている。

 

それ以前に遡れば2003年から04年にかけて約40兆円の介入を行った。その結果、日本の外貨準備はこの20年間で16倍増え、現在の1兆1000億ドルに達したが、その間の国内総生産(GDP)はほとんど横ばいだ。中国の外貨準備が急増しているのも日本と同様、人民元の上昇を防ぐため市場介入した結果である。

 

政府の為替介入は為替レートがファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)から乖離した異常な動きをしたときに行われるもので、売りもあれば買いもあり、長期的には外貨準備の水準は安定しているのが本来の姿だ。日本の場合、ドル買い一辺倒のためドルはたまる一方で、今後とも円高にするようなドル売り介入は考えられない。

 

とすればこれだけたまったドルを将来的にどうするのか。膨大な国民資産が為替リスクにさらされたまま目的もはっきりせずに漂流している。過去3年間の円高の結果約36兆円の評価損が生じている。ドルに偏った外貨準備を減らしていくことは国民資産の保全のためにも望ましいはずだ。

 

また、日本では普通国債の発行には国民の監視の目が厳しいが、為替介入の原資となる政府短期証券の発行については何の監視もなされていない。これは仕組みとして問題だ。短期証券といっても借り換えが繰り返されており、実態は普通国債と変わらず、その額は現在100兆円を超えている。これもすべて国民負担なのだ。